企画・広報担当者のための:情報密度を高め、簡潔かつ具体的に伝えるライティング実践法
はじめに
ビジネス環境において、情報は加速度的に増加しています。企画書、プレスリリース、社内報告書、メールなど、日々作成する文書も例外ではありません。こうした状況で、伝えたい相手に情報を正確かつ迅速に届け、行動を促すためには、「簡潔さ」と「具体性」を両立させたライティングが不可欠です。冗長な表現や抽象的な記述は、読者の理解を妨げ、伝達ロスを引き起こす可能性があります。
本記事では、情報密度を高めながら、簡潔かつ具体的に意図を伝えるための実践的なライティング強化メニューを提示いたします。これらのメニューは、日々の業務の中で「言葉の筋トレ」として取り入れることができる具体的なアプローチです。
簡潔さと具体性がビジネスライティングで重要な理由
- 読者の時間効率: ビジネスパーソンは多忙であり、限られた時間で必要な情報を把握する必要があります。簡潔な文章は、読者が素早く内容を理解することを助けます。
- 正確な情報伝達: 具体的な表現は、誤解の余地を減らし、書き手の意図を正確に伝えます。特に複雑な内容や専門的な情報を扱う場合に重要となります。
- 信頼性の向上: 論理的で無駄のない簡潔な文章は、書き手の思考が整理されている印象を与え、信頼性を高めます。具体的な事例やデータを示すことは、主張の説得力を強化します。
簡潔さは単なる短縮ではなく、必要十分な情報を選び抜くこと、具体性は詳細を羅列することではなく、伝えたい意図を明確にするための適切な例示や根拠を示すことです。これら二つは相反するものではなく、適切に組み合わせることで相乗効果を生み出します。
簡潔さと具体性を両立させるライティング実践メニュー
ここでは、情報密度を高め、簡潔かつ具体的に伝えるための具体的なトレーニングメニューをいくつかご紹介します。
メニュー1:情報の「コア」を見抜く訓練
あらゆる文章には、最も伝えたい核となる情報が存在します。これを正確に特定し、そこから逆算して文章を組み立てる練習です。
- 実践方法:
- 長いニュース記事、報告書、あるいはご自身の過去の文章を選びます。
- その文書で「最も重要な結論」「最も伝えたいメッセージ」「最も期待する読み手の行動」は何かを、1文で書き出してみます。
- 次に、その結論・メッセージを裏付けるために最低限必要な要素(理由、背景、具体的な事実、データなど)を3つ程度リストアップします。
- 元の文章が、これらの「コア」とその最低限必要な要素に絞って構成されているかを確認します。不要な情報、繰り返し、回りくどい表現がないか検討します。
この訓練により、情報を客観的に整理し、何が本質であるかを見抜く力が養われます。これは、発想段階でアイデアの核を明確にする思考力にも繋がります。
メニュー2:抽象度レベルの調整と例示の技術
伝えたい内容の抽象度を適切にコントロールし、必要に応じて具体的な例やデータを用いて補強する技術です。
- 実践方法:
- 抽象的な概念や主張を含むビジネス文書の一部(例:「市場の変化に対応するための組織改革が必要です」「顧客エンゲージメントの向上が目標です」)を選びます。
- その抽象的な主張が、読み手にとってどのような具体的な状況や行動を意味するのかを考え、複数の具体的な例を書き出します。(例:「市場の変化に対応」→「競合の新サービスへの追随」「特定の法規制への対応」「新たなテクノロジーの導入」など)
- 逆に、具体的な事実やデータ(例:「特定のキャンペーンでWebサイトのCVRが2%向上しました」「お客様から操作方法に関する問い合わせが週に10件発生しています」)を選びます。
- その具体的な事象が、どのようなより一般的な傾向や課題を示唆しているのか、より抽象的な概念に言い換える練習をします。(例:「CVR 2%向上」→「デジタルマーケティング施策の効果」「特定の施策の有効性」など)
- 自身の文章において、抽象的な主張の直後に具体的な裏付けや例示を配置する構成を意識して練習します。
これにより、読み手の理解度に合わせて情報の提示方法を柔軟に変える力がつき、説得力のある具体的な表現が可能になります。
メニュー3:一文の情報密度を高める表現技法
単に言葉を削るだけでなく、一文の中でより多くの、かつ明確な情報を盛り込むための具体的なテクニックです。
- 実践方法:
- ご自身の文章から、比較的長い、あるいは曖昧さを感じる一文を選びます。
- 冗長な言い回しを特定し、より簡潔な言葉に置き換える練習をします。(例:「〜を行うことが可能である」→「〜ができる」、「〜の状況において」→「〜の際に」、「〜に基づいて検討を行う」→「〜を検討する」)
- 無駄な修飾語や副詞(例:「非常に」「大変」「〜的」など)を削除しても意味が通じるか検討します。
- 接続詞を適切に用いることで、複数の文を一つにまとめたり、論理関係を明確にしたりできないか検討します。(例:「Aです。そしてBです。」→「Aであり、Bです。」「Aです。このためBです。」→「Aのため、Bです。」)
- 能動態の使用を意識し、主語と動作を明確にします。(例:「〜によって実施されました」→「〜が実施しました」)
これらの技法を意識することで、文章全体が引き締まり、読み手がスムーズに情報を処理できるようになります。
メ4:推敲による「簡潔・具体性」チェックリスト
書き終えた文章を客観的に見直し、「簡潔さ」と「具体性」の観点からブラッシュアップするプロセスです。
- 実践方法:
- 文章全体を読み返します。
- 以下の点をチェックリストとして確認します。
- 各段落の冒頭で、その段落の主要な内容が示されているか(トピックセンテンス)。
- 抽象的な主張に対して、具体的な根拠や例が示されているか。
- 具体的な事例やデータが、どのような主張を裏付けているか明確か。
- 専門用語や業界固有の表現が、ターゲット読者にとって理解可能か。必要に応じて補足説明があるか。
- 同じ意味の言葉やフレーズが繰り返し使われていないか。
- 一文が長すぎないか(目安として、読点が3つ以上つく場合は分割を検討)。
- 削っても意味が通じる言葉やフレーズがないか。
- 接続詞は論理関係を正確に示しているか。
- 可能であれば、同僚など第三者に読んでもらい、意図が簡潔かつ具体的に伝わるかフィードバックを求めます。
推敲は、書くプロセスとは異なる客観的な視点で行うことが重要です。時間をおいてから見直すことも有効です。
まとめ
情報過多の時代において、簡潔でありながら具体的に意図を伝える能力は、ビジネスパーソンにとってますます重要になっています。本記事で紹介した「情報のコアを見抜く訓練」「抽象度レベルの調整と例示の技術」「一文の情報密度を高める表現技法」「推敲によるチェック」といったメニューは、日々のライティング業務の中で実践できる「言葉の筋トレ」です。
これらのメニューを継続的に実践することで、情報の整理・分析能力が高まり、発想段階でのアイデアの明確化に繋がり、最終的に読み手の心に響く、効率的かつ効果的なビジネス文書を作成する力が向上するものと考えられます。ぜひ、ご自身のライティングに取り入れてみてください。