既存情報の組み合わせで企画と文章を活性化する発想・表現メニュー
ビジネスの現場では、ターゲットに響く企画書やプレスリリースを作成し、魅力的で人を動かす文章を書くことが求められます。しかし、日々の業務に追われる中で、発想がマンネリ化したり、限られた時間で効率的に効果的な文章を書き上げることが難しいと感じる場面もあるかもしれません。
このような課題に対し、一つの有効なアプローチとして「既存情報の組み合わせ」が挙げられます。身の回りにある情報、過去の資料、異なる分野の知識などを意識的に組み合わせることで、新しい発想が生まれ、表現の幅が広がる可能性があります。本記事では、既存情報の組み合わせを通して、企画と文章作成を活性化するための実践的な「言葉の筋トレ」メニューをいくつかご紹介します。
既存情報を組み合わせる思考とは
私たちは普段、無意識のうちに様々な情報に触れ、それらを処理しています。しかし、多くの場合、情報は個別の断片として認識され、特定の目的のためにのみ活用されます。「既存情報を組み合わせる」とは、これらの断片化された情報を意図的に結びつけ、そこから新しい意味や関連性、アイデア、そしてそれを表現するための切り口を見出す思考プロセスです。
このプロセスは、単に情報を羅列するのではなく、異なる性質を持つ情報同士を強制的にぶつけ合わせたり、共通点や差異を見出したりすることで、既存の枠を超えた発想を促します。これは、企画の糸口を探したり、定型的な表現から脱却したりする上で、強力な武器となり得ます。
メニュー1:属性リスト法を応用した発想トレーニング
このメニューは、対象となるアイデアや表現したいことの「属性」をリストアップし、それらを組み合わせることで新しい視点や発想を生み出す練習です。製品開発やサービス企画だけでなく、文章の切り口を探す際にも応用できます。
実践ステップ:
- 対象の属性リストアップ: 企画対象(製品、サービス、キャンペーンなど)や、文章で伝えたい中心テーマに関する属性をできるだけ多くリストアップします。物理的な特徴、機能、ターゲット層、利用シーン、感情的な側面、歴史、関連技術など、あらゆる側面を洗い出します。
- 異分野の要素リストアップ: 全く異なる分野やテーマから、関連性のなさそうな要素や属性をリストアップします。例えば、「自然界の法則」「スポーツ」「芸術」「料理」「歴史上の出来事」など、普段あまり結びつけないようなものを意識的に選びます。
- 強制的な組み合わせ: ステップ1とステップ2でリストアップした属性・要素の中から、二つ以上をランダムまたは意図的に選び、強制的に組み合わせてみます。「Aの属性を持つB」「CのようなD」「EとFの組み合わせ」のように、言葉で表現してみます。
- 例:ビジネス向けチャットツールの属性(「リアルタイム性」「情報共有」「グループ機能」)と、異分野「自然」の要素(「根」「循環」「生態系」)を組み合わせる。
- 組み合わせ例:「情報の根を共有するチャット」「コミュニケーションの循環を生むツール」「チームワークの生態系を育むプラットフォーム」
- 連想と言葉への落とし込み: 組み合わせによって生まれた言葉や概念から連想を広げ、具体的な企画アイデアや文章の切り口、キャッチフレーズなどを考えます。上記の例であれば、「情報の根を共有する」から「チームメンバーが知識の源泉に簡単にアクセスできる」というメリットに着想を得たり、「コミュニケーションの循環」から「情報の淀みをなくし、活発なやり取りを促す」という表現につなげたりします。
このトレーニングにより、普段考えつかないような意外な関連性や表現の可能性を発見することができます。
メニュー2:テーママトリクス法による表現バリエーション開発
一つのテーマやメッセージに対し、様々な視点やトーン、媒体などを掛け合わせることで、表現のバリエーションを豊かにするトレーニングです。特に広報やマーケティングにおいて、同じ情報を異なるターゲットやチャネルに合わせて最適化する際に役立ちます。
実践ステップ:
- 軸の設定: マトリクスの軸となる要素を決定します。例えば、「伝えたいテーマ」「ターゲット層」「コミュニケーションの目的(情報提供、説得、共感など)」「媒体(プレスリリース、SNS投稿、ブログ、社内報など)」「トーン(フォーマル、インフォーマル、ユーモラス、シリアスなど)」などが考えられます。
- マトリクスの作成: 設定した軸を使ってマトリクスを作成します。各軸の要素を組み合わせたセルができます。
- 例:軸を「伝えたいメリット(コスト削減、効率化、セキュリティ向上)」と「ターゲット層(経営層、管理者、一般社員)」とする。
- 各セルの表現検討: マトリクスの各セルについて、その組み合わせに最も適した表現方法や言葉遣いを検討し、実際に短い文章や箇条書きで書き出してみます。同じ「コスト削減」というメリットでも、経営層向けには投資対効果や長期的な視点を、一般社員向けには日々の業務負担軽減や個人のメリットを強調するなど、ターゲットに合わせた言葉を選びます。媒体やトーンも考慮することで、さらに多様な表現が生まれます。
- 例:「コスト削減」×「経営層」であれば、「新システム導入により、運用コストを年間〇〇%削減し、ROIを最大化」のような表現。
- 例:「コスト削減」×「一般社員」であれば、「日々のちょっとした工夫で、部署全体のコストを抑えられます。具体的には〜」のような表現。
このメニューは、一つの情報を多角的に捉え、それぞれの状況に最適な言葉を選ぶ訓練となります。
メニュー3:類推(アナロジー)を活用した新しい切り口の発想と表現
類推は、ある事柄と別の事柄の間に類似点を見出し、一方の理解を通してもう一方を説明したり、新しいアイデアを生み出したりする思考法です。馴染みのある概念に例えることで、複雑な内容を分かりやすく伝えたり、感情に訴えかける表現を生み出したりできます。
実践ステップ:
- 説明したい概念の特定: 企画したいことや文章で伝えたい、少し抽象的であったり、新しい概念であったりするものを特定します。
- 類似点の探索: ステップ1で特定した概念と、全く異なる分野や日常的な事柄の中から、共通点や構造上の類似点を持つものを探します。例えば、「チームワーク」と「オーケストラ」、「イノベーション」と「化学反応」など、様々な可能性を考えます。
- 類推による説明や表現の構築: 見出した類似点を使って、説明したい概念を表現します。「AはBのようなものだ」「Bの観点からAを見ると〜」といった形で、類推を用いた説明や比喩表現を組み立てます。
- 例:説明したい概念「複雑なプロジェクト管理」と類似点「巨大な地図とGPS」を見出す。
- 類推による表現例:「複雑なプロジェクト管理は、まるで巨大な地図の上で目的地を目指すようなものです。全体像を見失わず、今どこにいるのか、次にどこへ向かうべきかを示すGPS、それがこの管理ツールです。」
類推を用いることで、聞き慣れない概念にも親近感を持たせたり、印象的な表現でメッセージを強化したりすることが可能になります。
継続的な「言葉の筋トレ」のために
ここで紹介したメニューは、特別なツールを必要とせず、紙とペン、あるいはデジタルツールを使って手軽に始めることができます。重要なのは、これらのトレーニングを単発で終わらせず、日常の「言葉の筋トレ」として継続的に取り入れることです。
組み合わせる情報の種類を意識的に広げたり、あえて普段は結びつけないような意外なもの同士を組み合わせてみたりすることで、発想の幅はさらに広がります。また、生まれたアイデアや表現はすぐに良し悪しを判断せず、まずは形にしてみることが重要です。
既存情報の組み合わせは、発想のマンネリ化を打破し、より豊かで説得力のある言葉を生み出すための強力な手法です。日々のライティング業務の中で、ぜひこれらのメニューを実践し、自身の言葉の力を高めていただければ幸いです。