言葉の筋トレメニュー

企画・広報担当者のための:心を掴むエモーショナルライティング強化メニュー

Tags: エモーショナルライティング, 表現力強化, ビジネスライティング, 発想力開発

ビジネスシーンにおいて、企画書やプレスリリース、広報資料といった様々な文書は、論理的な正確さや網羅性が求められます。しかし、情報が溢れる現代において、単に正しい情報を提供するだけでは、読み手の心を動かし、行動へと繋げることは容易ではありません。ターゲットに「響く」文章を作成するためには、論理に加え、読み手の感情に訴えかける「エモーショナルライティング」の視点が不可欠です。

エモーショナルライティングとは、読み手の感情に共感し、それを揺り動かすような言葉選びや表現技法を用いることで、メッセージの浸透力や説得力を高めるアプローチです。本記事では、企画・広報担当者の皆様が、論理と感情の両面からターゲットに深く訴えかけるための、具体的なエモーショナルライティング強化メニューをご紹介します。

なぜビジネス文書に「感情」の視点が必要か

人間は、たとえ合理的な判断が求められるビジネスシーンにおいても、感情に大きく影響されて意思決定を行います。商品・サービスの購入、企画への賛同、企業への信頼感の形成など、様々な局面で「好きか嫌いか」「安心できるか」「共感できるか」といった感情が判断基準となります。

ターゲットが持つ「潜在的な悩み」「叶えたい願望」「共感できる課題感」といった感情を理解し、それに応じた言葉を選ぶことは、情報の伝達効率を高め、意図した行動を促す上で極めて有効です。エモーショナルライティングは、単なる情緒的な表現ではなく、ターゲットへの深い洞察に基づいた、戦略的な言葉の活用と言えます。

ターゲットの感情を深く理解するための準備

エモーショナルライティングを実践する上で最も重要なのは、ターゲットとなる読み手の感情を深く理解することです。ペルソナ設定は多くのビジネスシーンで行われていますが、ここではさらに一歩踏み込み、そのペルソナが「何を感じているのか」に焦点を当てます。

こうした準備を通じて、ターゲットの感情的な「ツボ」や「痛点」を把握することが、後の言葉選びに活きてきます。

心を掴むエモーショナルライティング強化メニュー

ターゲットの感情を理解した上で、具体的な表現力を高めるためのトレーニングを行います。

メニュー1:感情語彙の拡張と状況描写練習

感情を表す言葉のストックを増やし、それを具体的な状況と結びつけて表現する訓練です。

  1. 感情語彙リストの作成: 「嬉しい」「悲しい」といった基本的な感情だけでなく、「安堵する」「胸が高鳴る」「気が重い」「じれったい」「晴れやかな」など、よりニュアンス豊かな感情を表す言葉を集めます。ポジティブ、ネガティブ、中立的な感情に分け、リストを作成します。
  2. 状況と感情の描写練習: リストから一つの感情を選び、その感情がどのような具体的な状況で生まれるか、五感を使いながら描写する練習をします。「安堵」であれば、「長時間の会議が終わり、立ち上がった瞬間に肩の力が抜ける」「重要なメールの返信を受け取り、画面に表示された特定の単語を見つけたときの、体の中からスーッと力が抜けていく感覚」のように、読み手が追体験できるような描写を試みます。これにより、抽象的な感情を具体的な言葉で表現する力が養われます。

メニュー2:ベネフィットを「感情的価値」に翻訳する訓練

製品やサービスの機能や利点を説明する際に、それがターゲットにどのような感情的な価値をもたらすかを明確に表現する練習です。

  1. FATからFAB、そしてFEELへ:
    • F (Feature: 機能/特徴): その製品/サービスが持っている客観的な性能や仕様。「このツールはクラウド対応で、リアルタイムでの共有が可能です。」
    • A (Advantage: 利点): その機能/特徴がユーザーにとって有利な点。「これにより、どこからでも最新の情報をチームで共有できます。」
    • B (Benefit: 利益): その利点がユーザーにもたらす結果やメリット。「チーム全体の情報共有がスムーズになり、作業効率が向上します。」
    • FEEL (感情的価値): その利益を得たときに、ユーザーがどのような感情を抱くか。「作業効率が向上することで、締め切り前のプレッシャーから解放され、安心して仕事に取り組めるようになります。」「より創造的な業務に集中できる満足感や充実感を得られます。」
  2. ターゲット視点でのFEEL探索: 自身の製品/サービスについて、様々なターゲットの視点から「FAT」を書き出し、それぞれがもたらす「B」のさらにその先に、どのような「FEEL」があるかを徹底的に考えます。単に効率化、コスト削減といった論理的なメリットだけでなく、それによって生まれる「安心」「信頼」「誇り」「自由」「楽しさ」といった感情を具体的に言葉にすることを試みます。

メニュー3:共感と解決への道のりを示すライティング練習

ターゲットの抱える悩みや課題に寄り添い、共感を示しつつ、自社の提案がどのようにその感情的な負担を軽減し、望む状態へ導くかを示す構成を練習します。

  1. 「わかる、わかる」から始める: 文章の冒頭や途中で、ターゲットが感じているであろう不満や不安、諦めといった感情を代弁するような言葉を挿入します。「〇〇にお悩みの皆様」「〇〇のように感じたことはありませんか」といった直接的な問いかけではなく、「〇〇が当たり前だと思われているかもしれません」「〇〇という状況に、知らず知らずのうちに負担を感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか」のように、共感を示す静かな語りかけを練習します。
  2. 感情の変遷を描く: 現在の悩み(ネガティブな感情)から、解決策(自社の提案)によってどのように状況が変わり、どのようなポジティブな感情に至るのか、その感情の「変遷」をストーリーとして組み立てる練習をします。単に「問題解決→良い結果」ではなく、「不満→希望→安堵→満足」のように、読み手の内面の変化に焦点を当てます。具体的なユーザー事例などを活用することも有効です。

エモーショナルライティングの実践と効率化

これらのメニューを実践する際、常にターゲットの視点を忘れないことが重要です。自分が書きたいことではなく、ターゲットが「何を感じ、何を求めているか」を問い続けることで、言葉の精度は高まります。

また、日頃から様々な文章(広告、書籍、映画のセリフなど)に触れる中で、「この言葉はなぜ心に響くのだろうか」「どのような感情に訴えかけているのだろうか」と分析する習慣をつけることも、発想力と表現力、そして効率的な言葉選びに繋がります。ターゲットの感情理解のフレームワークや、感情語彙リストは、限られた時間で効果的なメッセージを作成するための強力な助けとなるでしょう。

まとめ

ビジネスにおけるエモーショナルライティングは、論理的な情報伝達を補完し、ターゲットとの間に深い繋がりと共感を生み出すための強力なツールです。ターゲットの感情を深く理解する準備から始め、感情語彙の拡張、感情的価値への翻訳、共感を示す表現といった具体的な訓練を継続することで、読み手の心を掴み、行動を促す文章を作成する力を高めることができます。

ご紹介したメニューは、日々のライティング業務の中で意識的に取り組むことができる「言葉の筋トレ」です。これらの実践を通じて、表現力と発想力を同時に磨き、ビジネスシーンでのコミュニケーション効果を最大化していただければ幸いです。